そう言えば…秋でした。
古い話で恐縮ですが、私が小学生中学年の頃一人の転校生が来ました。
田舎町ですので、転校生は割りと珍しい存在でした。
女の子でした。
同じクラスと、席が近かったとか、そんな理由で少し親しくなりました。
ある時彼女の誕生会に呼ばれて行きました。
私の他に二人来たと覚えていますが、誰だったかはもうわかりません。
その日は多分日曜日で、晴れていました。
行ってみて驚いたのは、家に居たのが彼女1人だったことです。
当然こちらは子供ですから、色々尋ねました。
『あれ、お父さんは?お母さんは?』
『家に誰もいないの?』
今思えば…何て無遠慮で失礼な子供たち
彼女の話をまとめると、
お父さんは警察官、お母さんは看護婦、仕事先が離れているから、自分達はお父さんと暮らしている。
『自分たち?』
彼女には妹が居て、今日はお母さんの所へ行っているとの事。
じゃあ今日はどうなるんだろう?
などという心配は無用でした。
人数分のお昼ご飯が出てきました。
聞けばお父さんが、出勤前に作っておいてくれたとか…
驚いたのはその後です。
何と!茶碗蒸しが出てきました。
蒸したての熱々で、彼女お手製でした。
その時私たちがどんなに驚いたかを伝えるのは、かなり難しいでしょう。
何せ、当時私も他の二人も調理をするなんて考えもしないし、やったこともありませんでしたから。
しかも、茶碗蒸しなんて…
聞けばお母さんに教わったのだそうで、彼女はお父さんが宿直の日は全ての家事をやっていると言っていました。
茶碗蒸しは美味しかったですし、作るのに慣れているのを感じました。
食事が終わり片付けが済むと、彼女は何故かカーテンを閉めはじめたのです。
『何するの?』
『しっ、誰かに見られるとまずい』
?????
そして押し入れを開け、小さなケーズを出してきました。
それは麻雀パイでした。
見たのも触ったのも生まれて初めてで、とても貴重な経験でした。
私は後にも先にも、麻雀パイに触ったのはこの時だけです。
当時は存在さえ知りませんでした。
多分、多分
触るなよ!と言われていたのでしょうか…
ずっと時が過ぎて思い返し、何か不自然だとの想いにとらわれました。
夜勤は警察官も看護婦も同じくらい…しかも警察官は転勤が有るのに
何故…お母さんではなく、お父さんと一緒に暮らしていたのだろう?
あの誕生会の日に妹がお母さんの所へ行って、何故彼女は行かなかったのだろう?
あの日当日が誕生日でもなかったのに…
彼女はそれからすぐくらいに、また転校して行きました。
どこへ行ったかわかりません。
さよならの言葉も交わさなかった、そんな別れでした。
今はどこかで、人生の実りを収穫していて下さい。
風吹く秋の日にふさわしい
ちょっと不思議な思い出です。