さてさて

生きてると年をとるんです

憎みきれない、ろくでなし

ある人のお話 ( 実話 )


年齢は、当時80才過ぎ


わりと金持ち、独り暮らし


大病患い入院手術後も、それまでと何ら変わらぬ生活希望


親から譲られた土地建物、預金等があり、ずっと気ままで豊かな独身を貫いていたため、身の回りの世話を頼める近親者がいなかった。


しかしもう、一人で暮らせる状態ではなくなった


しかし、しかし…


彼女は頑なに独り暮らしをすると言って譲らない


食事の支度どころか、着替えもままならず、家内を歩くのも掴まりながらの様子を見兼ね


火事でも出されたら大変じゃないか!と、近所が騒ぎ立て


遠縁の人が間に入り、見守りと家事をヘルパーに依頼することに


しかし…彼女は手強かった。


一日に何度もヘルパーが来るのを承知していながら


鍵をかけて待つ、呼び鈴押しても応答無しは当たり前


希望を聞いての調理は、惨敗


食事を用意しても、近くの店から出前を取る日々


一番困難を極めたのは


通院でした。


手術後退院しても、ずっと定期的に通院しなければならないと


本人は、理解していました。


しかし、いざ当日になると


『今日は具合が悪いからダメだ』


具合が悪いなら、なおさら行かなくては…と言えば


『病院へいく日は、綺麗にしなくちゃならないの』


???


『私は今まで、病院ヘ行く前は必ず、美容院でセットしてから行ってたの』


???


『でも今日は具合悪くて、美容院ヘ行けなかったから…だから、病院ヘ行けないの!』


… … …


理解するのに時間がかかります。


回りの方々に聞いた話では、どうやら担当のお医者様が、彼女好みのイケメンだったらしく


掴まらなければ歩けないのに、ピッチリしたタイトスカートをはく


ハイヒールのパンプスをはく


スパンコールが沢山ついたカシミアの服じゃなきゃ着ない


タクシーに押し込むまで、お賑やかだったそうです。


豊かな独身生活を送れたお陰で?いつまでも御嬢様


わがままで、意地悪な御嬢様


でも


私…嫌いじゃないんです、この人


手のつけられない嫌な奴だけど


みんなに平等なんです。


みんなに意地悪、みんなに嫌な思いさせまくり


相手によって態度や言葉を変えたりしません。


だからみんなに、嫌がられていました。


潔いじゃありませんか


崇高な、ろくでなしです。


好きなタイプのお医者様に好かれようとするなんて


恋する乙女みたいでしょう?


極悪人じゃありません、普通のバカな婆さんです


嫌いじゃないです


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