昔の湯治場
私が小さな頃、近隣の在所から父方の祖母が一人でやって来ることが、年に一度くらいありました。
来訪の目的は、町内にある湯治場へ行くことでした。
当時の我が家から、そんな近くではなかったのに、歩いて行きました。
で、一人では寂しかったのか
いつも私がお供でした。
泊まるわけではなく日帰りなのに、一緒に行くのは何故か私だけ
母は行きませんでした。
近くでもなく、何も面白いことがない湯屋になど、子供は行きたがりません。
祖母には秘策がありました。
『何か買ってやるから…行こう』
その湯屋手前には、商店がありました。
田舎の湯治場近くの、いわば何でも屋です。
小さな私には、欲しいもの満載、夢のような?場所に見えました。
そこで、私が希望するものを本当に買ってくれました。
ひとつだけですが…
だから、親にねだっても絶対買ってくれない、少し高価なお菓子とか、一番大きな風船とかを手に入れることが出来ました。
長い道のりを歩かされたことも、入湯中の祖母を待たされることも、その一義?で堪えられました。
嬉しい思いでです。
午前中に到着し、そのまま浴場へ祖母は向かいます。
いわば受付?のところで、入湯代と昼食代、ついでに場所代も入っていたのか…
祖母はお米を差し出します。
どのくらいの量かは、良く分かりませんが、年寄りがもち運べるくらいですから、大したことは無かったように思います。
とにかく、それが代金でした。
今では考えられないことですが、当時お米は貴重でした。
お金と同等に使える場所があったのです。
何一つも楽しくない、熱い湯も嫌いでしたが、湯から上がった人々が
回り縁でくつろぐ姿は、鮮やかに覚えています。
心からゆったりして
幸せそうでした。
祖母も、幸せな時間を過ごしたのでしょう。
50年以上も前の、古い話です。
わが家に来た頃の姿です